尾崎翠という人がいた。

今、鳥取出身の小説家といえば、ラノベ出身で、その後、直木賞を受賞した桜庭一樹さんがいらっしゃいます。
「私の男」が二階堂ふみ×浅野忠信で映画化されてましたね。
近親相姦がテーマだったり、作品はゴシックっぽいイメージですが、桜庭さんは小柄な着物が似合う女性です。
どこかで(Wikiかな?)文壇一の美少女と書かれていましたが、どことなく古本屋のカンナちゃんに似ていて、親近感が沸きます。
山陰の女は蓮佛美沙子系の顔が多いですよね。
フランス人形みたいな女の子もかわいいと思いますが、控えめそうだけど、実は芯の強そうな山陰の女性の顔も素敵です。

桜庭さんの一昔前、文学に憧れながら、鳥取でひっそりと亡くなっていった女流作家がいます。
それが尾崎翠という人です。
寡作なのですが、それは鳥取に連れ戻されて以降、文筆活動を殆どしていないからです。
今のように作家が地方にいて、パソコンで編集者にデータを送って、スカイプでダメ出しをされるような(いや、知りませんけどね、詳しいことは)ことはできなかったのです。
体を壊して、東京から鳥取に帰ってきたかつての少女は文章を書くこと以外に何もキャリアを積み上げてこなかった・・・文学仲間も鳥取にはいない、薹が立っていたので、嫁にいくという選択肢もなかった。
「私が今まで頑張ってきたことは全て無駄だったのだろうか・・・?」
翠の気持ちがよくわかる!!
黄砂に吹かれて、いっそ私も消え去りたい!!
・・・いや、翠はそんなこと言ってませんけどね(笑)

尾崎翠は鳥取県出身の小説家なのですが、「新潮」に小説が載ってしまい、大学中退を余儀なくされます(当時は女が小説を書いて発表することははしたないことであった)
その後、戯曲「アップルパイの午後」、小説「第七官界放浪」などを発表し、短編「こほろぎ娘」が太宰治の目にとまります。
しかし、その頃、激しい偏頭痛に悩まされていた翠は当時の質の悪い頭痛薬を飲み続け、幻覚が見えるようになっていきます。
その様子を傍で見ていた年下の同志から翠の長兄に連絡が入り、鳥取から翠を連れ戻しに来た長兄は「10才も年下の男に迷惑をかけるなんてけしからん!」と怒り、鳥取に連れ戻します。
鳥取に戻った翠は甥や姪の世話をしながら、もう二度と長編小説を書くことなく、「このまま死ぬのなら、むごいものだね・・・」と言って亡くなりました。
鳥取に帰って以降の翠の晩年は「生きる屍」と言われていたそうです。

【結論】
時代が悪い(笑)!
翠の悲しい人生を現代に置き換えて比較してみましょう。まず・・・
比較①/今、大学在学中に「新潮」でデビューしても、除籍になることはない。
比較②/今、幻覚が見えるような危ない頭痛薬は売ってない。
比較③/今、文学仲間の10コ下の男と同棲したところで、鳥取のお兄ちゃんに叱り飛ばされることはない。むしろ、女の方が先に有名になってて、仕事の依頼も多いなら「その男に利用されていないか?その若い男はヒモなんじゃないのか?」と心配される。
比較④/今、鳥取に帰ってもパソコンで編集者とやり取りできる。昔は顔が見える距離にいないと人を育てられない、と思っていたかもしれないが、今は海外で小説や漫画を描いて日本の出版社から本を出版する人だっている。

こうやって比較してみると、「生まれてくる時代と場所が良ければ、尾崎翠は感性を潰されずにもっと作品を生み出せたのではないか」と思います。
神田の岩波ホールで10年以上前に尾崎翠の人生を描いた「第七官界放浪」という映画が上映されていました。
第七官界放浪の主人公を柳美里の妹が演じ、尾崎翠役は白石加代子さんでした。
口角が常に上がっている強そうな白石さんが演じることによって、昔の芯の強い女性に感じられ、不思議と後味は清々しい映画でした。

あれ?
今日は松崎にあるドミトリーたみ の紹介をしようと思ったのに・・・。
以前、たみで行われていたイベント「尾崎翠ナイト」に絡めて書こうとして、結局、尾崎翠のことばかり書いてしまいました。(正確なイベント名は忘れました。間違っていたら、ごめんなさい)
ドミトリーたみでは撮影禁止なので、どのような外観かはHPで見てください(元国鉄職員の寮をリノベーションしたドミトリー&カフェ)
まるで、尾崎翠がいそうな雰囲気のドミトリー&カフェでした。
UKBU.LLC
↑こちらのHPでたみでの今後イベントを知ることができます。

ちなみに、私は旅経験0の知人を「安くて面白い宿があるよ~」と気軽なノリでたみに宿泊させました・・・。
行ってから、気づいたのですが、アジアをバックパックを背負って旅した人ならまだしも、旅経験0の知人に鳥取のドミトリーはハードルが高すぎたかもしれません。
鳥取にはチベットやブータンに来るような感覚で来ると楽しめるかと思います。

時々、鳥取市のカルンというカフェの店主もイベントで参加されていたことがありました。
カルンの店主は中野のカルマで働かれていたそうで、カルンに何故か私の予備校時代の知り合いの作品が置いてあり、びっくりしました。
そちらも是非、鳥取市にお立ち寄りの際にはどうぞ。