この世界の片隅に

「君の名は」はともかく、「この世界の片隅に」が観たいと母親に言ったら、「何故、漫画の映画にお金を出すのか」と言われた。
私たちの世代は生まれた時からアニメがあって、夏休みになればドラえもんやディズニーの映画を観て、中高生になるとジブリを観て(ガンダムやエヴァンゲリオンの人もいただろうけど)、大学生になるとヤン・シュワンクマイエルやユーリ・ノルシュタインのアニメを観た。
別に、映画館でお金を払って観るならハリウッド超大作だけ!とは思わない。
(その前に私は観るのがミニシアター系ばっかりで、ハリウッド映画を殆ど観ない)
漫画やアニメの中にも文学作品と同じくらいクオリティーの高い物語があるよ、と思う。

しかし、実際、映画館に行ったら母親世代のオバチャン~オバアチャンばっかりでびっくりした。
年配の人からしたら、懐かしい感じのする安心して観れる映画なのかも。
ただ、主人公すずが生きてたら今頃100歳ぐらいになっているので、観に来ていたオバアチャンたちの母親世代がドンピシャだと思う。
19で知らない人の家に嫁に行って、気が強い小姑がいたりして、小言を言われたり、工夫したり失敗したり、こんなんだったな~というのは同じだろうけど。
もし、私が東京で一人暮らしを続けていたら、それは遠い世界の話に思えただろうし、地方出身者同士で結婚してお互いの実家と疎遠な核家族で暮らしていても「よく昔の女の人はこんなの我慢できたね」と思っただろう。
私も結婚した時、自分のワガママを全部抑えて、家の人たちの言う通りにやってたので、主人公が実家に帰ると言うと、ダンナさんが「まだ人んちなんか!」と言っていたのに対して、わかるわかると思った。
人んちだよ。
今まで自分の為だけに生きてきたんだもん。

戦争中の広島が舞台なので原爆投下もされるんだけど、他の戦争映画と違ってあまり残虐な感じはしないのは絵柄と主人公の性格によるものだと思う。
ちょっとおっちょこちょいだけど、憎めないキャラクターって漫画に出てくる少女の鉄則で、そういう主人公に観てる人は「私みたい」って感情移入しやすくなってるんだ、と子どもの頃から思っていたけど、全然違うから気をつけた方がいい。自分はあんなに健気じゃないから。
それはともかく、主人公はお裁縫が苦手で特に器量がいいわけでもない普通の娘で、唯一絵を描くのが得意なのに爆弾に当たって右手が吹っ飛んでしまう。
それでも、あまり残酷な感じはしなかった。
私の最初のトラウマ漫画は「はだしのゲン」で、小学生の時に図書館で泣きながら読破して、「もしも、世界が間違っている方向に進んでいる時、私はNOと言えるだろうか?」と見事にゲンの思想に染まった。
戦争の悲惨さは伝えないといけないんだけど、あんな残酷な内容で政治的思想の強い漫画がよくジャンプに連載されたり、図書館にあったよなと思う。
「この世界の片隅に」はそういう部分はなくて、あくまでも普通の生活をしていて、その普通さや平凡さって大事だねと思える話。悪い人も出てこないし。
あと、話に伏線がいっぱい張ってあって、それも良くて、物語は細部に宿るというかディティールが細かく描かれているから、そういう丁寧さは女の人が好きそうな映画だった。
だから、映画館がオバアチャンだらけだったのかな?