アートの力

兵庫県立美術館で開催しているアドルフ・ヴェルフリの展覧会に行ってきた。
アドルフ・ヴェルフリは私が最初に興味を持ったアウトサイダーアートの画家で、30代で統合失調症になり、その後死ぬまで30年間も精神病院で過ごしている。
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統合失調症の患者の描く絵は執拗な文様の繰り返しが多く、それがデザイン的なのに素朴な味わいのあるものが多い(手書きで、洗練されてないから)
大学で心理学ゼミを取ったら、何故か精神疾患のある方への絵画療法が授業のメインだった(勿論、ユングやフロイトもやるんだけど)
私にとってはすごく興味のある内容だったが、①朝早い授業、②必修科目ではない、③テキストが全部英語で、なおかつそれを翻訳して要約して発表しなくてはいけない、という理由からか、生徒がどんどんいなくなった。
同級生に訊いても、その講座の存在を覚えている人がいなくて、もしや私が見た夢なのかな??と思うぐらい影の薄い講座だった。
しかし、制作をしている人というのは自分の身をもって絵画の力を知っているので、絵画療法を学ぶのは有益だと思うし、実際に絵画療法士として活動している先輩もいる。
絵を描いていて精神疾患が治るわけがないと思われるだろうし、ただ描かせるだけなら紙や鉛筆を渡しておけばいいだけだと思われるかもしれないけど、実際にその競技をやっていた指導者が教えるのとやったことがない指導者が教えるのとは違う。
アドルフ・ヴェルフリに話を戻すと彼を担当した精神科医が彼の絵を認めて世に出さなかったら、時代的に彼は犯罪を犯したただの狂人扱いである。
まだ、精神疾患に偏見の強い時代(明治ぐらい)だから、幼女暴行など繰り返す30代の男が日本にいたら「狐憑きじゃ」と言われて座敷牢に放り込まれていただろう。
統合失調症は強いストレスが長期間かかり脳が正常に働かなくなる病気で、早い段階で正しい対応が求められる。
放置したり、閉じ込めたりすると被害妄想をこじらせる人が多い。
アドルフ・ヴェルフリの犯した罪は少女に対する暴行なのだが、その前に何度も何度も身分違いによって恋愛が破られている。
あと、彼は貧しい家庭に生まれ、9歳と11歳で両親をなくている。
そこまではヘンリー・ダーガーと似ているし、その後の環境も悪く孤独であったというのも似ている。
どちらかというとヘンリー・ダーガーの方が少女にいたずらをしそうな絵を描いているが、彼は教会の掃除夫で犯罪は犯していない。
アドルフ・ヴェルフリのトリガーは女性だったと思う(ロリコンというより、子どもの方が逃げないから幼女が被害にあったように感じる)
絵は全くそういうものは表れていないが、もし精神疾患にならず脳がフツーに機能していても、描くことによって挫折を乗り越えて行けたんじゃないかと思う。
家庭に拠り所がなく、社会でも虐げられて、異性に否定されていても、文章を書くことや絵を描くことは自由な世界であり、点数がつかないものである。
(インサイダー、つまり芸大を出てナントカ会の会員で、絵に値段がついているようなプロは違うけど)
創作している間、フロー状態になることによってストレスが緩和する(嫌なことを忘れられる)ことにより、瞑想と同じような効果も得られる。
そして、それが評価されることによって、本人の自信にも繋がる。
ヘンリー・ダーガーの場合、入院した時に彼の部屋に入った隣人によって大量のノートが発見される。
隣人がたまたまアーティストの夫婦だった為、彼の創作が素晴らしいとすぐに理解して「あなた、すごいじゃない!」と病床のヘンリー・ダーガーに伝えたそうだ。
そして、彼の死後、作品は発表されて部屋も数年間保存されていた。
正に「発掘された才能」感じ。
アドルフ・ヴェルフリも彼の才能を認めた精神科医に色鉛筆を渡されている。
ほんの些細なことかもしれないが、そのことによって彼の作品はうんと良くなっている。
晩年は自分のことを「偉大なアーティスト」だと思っていたらしい。
うまくいかなかった過去を引きずって女性に対しての被害妄想を膨らましていくより、よっぽどマシな誇大妄想だと思う。
アドルフ・ヴェルフリもヘンリー・ダーガーも孤独な人生だったかもしれないけど、自分を導いてくれる精神科医や理解してくれた隣人がいたことが最大の救いである。